なぜ駅伝なのか、オリンピズムが照射する自由の地平

日本初のオリンピック代表選手、長距離ランナー金栗四三をご存知でしょうか。来年2019年のNHK大河ドラマ「いだてん」の主人公。1912年ストックホルム大会で、マラソンに出場するもレース途中で失踪したという金栗四三です。

前回のブログで、クーベルタン男爵の逸話を引用した本の著者、佐山和夫さんによる別の著書『金栗四三 消えたオリンピック走者』に、その後、金栗が何を考え、何を果たしたのかが詳しく記されています。

金栗はオリンピックでの挫折から、外国との実力差を痛感して、日本が世界に通用する長距離ランナーを輩出するためには、スポーツの底上げが必須と考えました。そこで、体育教育に尽力し、多くのランナーが関われる駅伝を考え出したのだそうです。一番最初の駅伝大会は「東海道五十三次駅伝競争」。京都・三条大橋から上野・不忍池まで23区間516キロを関東と中部の2チームで競い、関東チームのアンカーを金栗が務めて見事優勝。金栗は、ほかに下関~東京1200キロを20日間で走破、樺太・真岡~東京間1300キロ超も20日間で走り抜けました。走る行為そのものが観衆を感化するという教育的役割も果たしたそうです。箱根駅伝は当初、アメリカ横断マラソンの予選として構想されましたが、ついにアメリカ走破は実現せず、しかし、箱根大会自体は熱狂的支持を得て現在にいたる、ということです。五輪と駅伝がきれいにつながり、駅伝がその起源においてすでに、教育的権能を帯びていたことが分かります。つまり、駅伝が芸術と合わさることで「スポーツと文化、教育との融合」が実現するのです。

スポーツ・芸術・教育の関係を少し別の角度からもみてみます。駅伝芸術では、芸術の中身を考えるとき、何をすべきか、何をしてはいけないか、などの決まりを基本的に設けていません。出走者はいたって自由です。割り振られた区間を踏破すればよいだけ、芸術を同居させながら。この自由度を考えるとき参考になるのが、またもや、近代オリンピックの父クーベルタン男爵に影響を与えた、IOC以前からのオリンピックです。

前回のブログに書いた、さまざまなるオリンピックのうち、1612年から1852年まで続いたコッヅウォルドオリンピックには、スネを蹴りあって相手を倒す「すね蹴り」という競技があります。また、1850年に始まり、現在も毎年開催されているウェンロック・オリンピアン・ゲームズには、輪投げや石投げ、豚追い、編み物や計算など、地域の文化や風習と密接に絡んだ、独自の種目があったそうです。さらに、IOCの近代オリンピックを組織したクーベルタンも、芸術種目を実施するだけでなく、「乗馬ボクシング」や「乗馬フェンシング」など、まったく新しい競技を生み出すことにもチャレンジしたといいます。まったく冒険家なこと。

こうなると、そもそも近代オリンピック黎明期に正式種目があった芸術分野と、日本独自のスポーツである駅伝が結びつくことに、何の不思議もありません。この一風変わった新種目は、さまざまなるオリンピックの自由な気風を体現しているといえるでしょう。

アート自体も、本来自由なものであるはずです。しかし無制限の自由が許されるわけではありません。世の法律条例をはじめとした社会規範を意識して、何が許され何を控えるべきか、障害や不都合、軋轢に出会うその度毎に、態度を決して進まねばならないのです。

そうして、芸術とスポーツ、社会のせめぎあいのなかから生まれるイベント・行為は、きわめて教育的であり、かつもしかしたら美しいのではないか、と密かに思い、その風景を見られるかもしれないことを、私は期待しています。確実に、見慣れた街の見え方は変わるでしょう。

今回、高度なスキルをもった何人ものスタッフが、初めてだらけのこのプロジェクトに血を通わせ肉をつけてくれています。ウェブでの中継体制整備、世界初であるが故理解を得るための広報活動、競技を成り立たせる大きな仕組みや細々とした演出の準備、専業でない参加者が大半なため決定的に重要な連絡業務などなど、数え上げればきりがありません。なにより、得体の知れないイベントに賛同して出走いただく各組の方々の勇気と胆力を称えたいと思います。

しかし、もともとは、極めてゆるく、タスキを継いで走りながら芸術するってのは面白いかも、くらいの軽い思いつきからはじまった企画です。ご覧になる方々には、馬鹿なことやってるなでもいいです、あなたの鑑賞による意味の定着を待つ出来事をぜひ楽しんでいただきたい。私は、初回のブログに書いたように、誰もが気軽に「駅伝芸術」をしようか、と思える世界の到来を夢想することに、いまだ変わりありません。

のびのびと、自由に。

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カテゴリー: art

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