スポーツたれ、体育でなく

日本大学アメリカンフットボール部による「危険タックル」「悪質タックル」が社会問題化しています。この問題に対して「学生スポーツの危機」であるという論調が多くみられ、「日大という巨大組織の統治」という大きな枠組みの弊害だという指摘もあります。ここではまた別の視座から眺めてみます。世の中でこれだけ大きな関心を呼んでいるのは、「体育」という、教育に組み込まれた日本独特の運動観を形作る制度に、無理があるためなのかもしれません。駅伝芸術は、スポーツとしての駅伝と、アートとしての芸術が合わさった行為として構想するものなので、スポーツと体育を分かつ壁について意識的でありたいと思います。

スポーツという言葉の起源をご存知でしょうか。ラテン語のdeportare (デポルターレ)がフランス語のdesporterに転じて、英語のsportになったのだそうです。(ブリタニカ国際大百科事典より)deは離れる、portareは運ぶ。「日常的な普段の生活」=「普段の労働」から「離れる」ことを意味し、「休養する」「気晴らしする」「楽しむ」「遊ぶ」といった意味を持っているのです。余暇の遊び。

京都大学名誉教授の佐伯啓思さんは、《スポーツ本来の意義「高尚な遊び」取り戻す時》というタイトルで、勝つためには反則も辞さないという意識が社会のあらゆる領域に浸透している様を批判しています。(朝日新聞2018.6.1異論のススメ)この記事では、政治・経済にも及ぶ、組織化され、過度に勝敗にこだわる不自由さを脱して、人間存在の根源にある遊びの精神を取り戻せと呼びかけています。

今回のブログでは、なぜ、遊びが日本のスポーツから失われがちになるのかを、独自の思想で「体育」という制度批判を展開している、スポーツ評論家の玉木正之さんの説を紹介します。

玉木正之『スポーツ 体罰 東京オリンピック』(NHK出版)によると、スポーツは、民主主義の広がりとともに現在の形になっていきました。腕力でカタをつけるのではなく、話し合いで物事を決める「暴力の排除」が前提としてあり、暴力的な勝負をル―ルでしばり、ゲーム化することにより、近代のスポーツ競技が成立したのです。「スポーツは本来、一切の暴力を否定し、「殺すな」「傷つけるな」というメッセージを含んで、人類が生んだ偉大な文化なのだ。」

体育は、明治時代、西欧社会との接触により人々の体格の圧倒的劣勢を目の当たりにした日本政府が、国民の健康増進、体力向上という国家目標を掲げ、教育に組み込んだことに始まり、スポーツとは本質的に異なるといいます。体育は、学校教育の一環として青少年の身体を鍛えるもので、必然的に強制を伴うのです。

「しかし、スポーツは本来、自発的に楽しむものであり、本質的に誰からも強制される筋合いのものではない。(中略)それが西欧の市民社会に根づいたスポーツのあり方なのだ。」そう、遊びなのですから。

「欧米では、「SPORTS」という言葉を、「身体を動かす運動競技」という意味以外に、「冗談」「気晴らし」「余暇の遊び」といった意味でも使う。だからスポーツ競技に暴力的な要素があるとしても、スポーツと暴力は最も相容れないものという理解がボンヤリとでも常識として身につく。が、(中略)日本人は、その常識は学ばなければ身につかない。」

批判は体育会という組織の身分制度に及びます。「上の者(先輩)に対しては絶対服従という世界。体育会のいびつな人間関係を受け入れてさえいれば、学生時代にロクな勉強をしなくても、一流企業に就職できるというルートが築かれている。それに逆らうということは、体育会の組織自体の否定につながり、彼らが築いてきた既得権益を脅かすことにほかならない。」

「日本の体育教育ではスポーツとは何か?については一切教えない。体力に恵まれ、技術や戦術で「上位に」立った者が、選手を引退してから「指導者」となる、というのが、圧倒的多数派と言えるのだ。」

もちろん、体育会すべてを否定するものではなく、スポーツを正しく理解して、日本にスポーツの価値を定着させるのに、体育会という制度が妨げになっている面が大きいということを強く主張しているのです。日本で起きる運動競技をめぐる問題の多くは、こうしたスポーツと体育の不幸な関係を意識すると根っこのところで理解できると思います。

いま、駅伝芸術では、競技結果の順位、優劣、勝敗を決めない形式をとろうとしています。遊びとしてのスポーツを十全に体現できることを願いながら。

(テラッコ iwaosho)

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カテゴリー: art

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